公演によせて

 『きゃんと、すたんどみー、なう。』公演情報

病気や障害を抱える兄弟姉妹を持つ子どものことを「きょうだい児」と言います。

日本人口の5%がこの分類に該当すると推定されていて、僕自身も兄が知的障がいを持つきょうだい児でした。

子供時代の僕は、親の愛情が兄に向いているなあと感じたり、必要以上に「健常者の僕は良い子でいなきゃ」と思っていた気がします。

結局、大学進学で上京して演劇にのめり込み、良い子ではなくなってしまいましたが……。

今にして思うと、「自分の人生だけど、主人公じゃない」あの頃の感覚が、演劇に引き寄せられた要因だったのではないかと考えています。

良い子を捨て、兄の世話をすることから逃避した僕は、その罪悪感を右胸のポッケに突っ込んで、その胸の重みをたまに思い出しては無視をしながら、俳優をしていました。

当時の恋人達には、「兄が障がい者である」という事実を伝えることがどうしても出来ず、その罪悪感は左胸のポッケに突っ込みました。

30歳を過ぎておっさんになり、両胸ポッケの中身をやっと眼前にする勇気を得た僕は、神への告解の代わりに、目に見えないマイノリティ、「きょうだい児」を主軸に置く、一幕一場の戯曲『きゃんと、すたんどみー、なう。』を書きます。

2017年、やしゃごの前身、青年団若手自主企画「伊藤企画」時代の作品です。

 

20227月、東京芸術劇場シアターイーストで再演します。

初演から5年が経ち、世界は変化しました。僕達も。

戯曲の骨子を残しつつ、現在の僕が見えている世界を創出すべく、今、メンバーと新しい『きゃんと、すたんどみー、なう。』を作っています。

わかりやすく楽しくて、悲しくってちょと寂しい、感情カオスな作品にするべく絶賛稽古中です。初演を見て頂いた方も、楽しんで頂ける作品になります。

ぜひご来場ください。

作・演出/伊藤毅